「勉強をしますか。何か書きますか。 … どうぞ偉くなって下さい。しかし無暗にあせってはいけません。ただ牛のように図々しく進んで行くのが大事です。」
「牛になる事はどうしても必要です。われわれはとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。 … あせってはいけません。頭を悪くしてはいけません。根気づくでおいでなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。 … 牛は超然として押して行くのです。」
夏目漱石の書簡より。(大正5年8月21日に久米正雄・芥川龍之介宛、同24日芥川龍之介・久米正雄宛。)適当に(というのは、ぼくなりにどうにかこうにか、という意味ですが)旧字体、旧仮名遣いを現代に、漢字を平仮名に変え、改行をなくしたりしました。
参考ページ『小さな資料室』
おまけ:
1. 写真はバーリの夕食から、海老や貝の刺身。
2. 21日の手紙の、締めの言葉。こんな手紙が書ける大人になりたい。
「今日からつくつく法師が鳴き出しました。もう秋が近づいて来たのでしょう。
私はこんな長い手紙をただ書くのです。永い日がいつまでもつづいてどうしても日が暮れないという証拠に書くのです。そういう心持の中に入っている自分を君等に紹介するために書くのです。それからそういう心持でいる事を自分であじわって見るために書くのです。日は長いのです。四方は蝉のこえで埋っています。」
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