若手研究(B)「知的財産保護が経済成長に与える影響に関する定性および定量分析」

研究期間:2011年4月28日〜2014年3月31日

研究代表者:古川雄一(中京大学)

2013年度の研究実績(subject to changes):

 最終年度において、本プロジェクトを総括するような研究成果がいくつか公表された。

  1. 第一に、International Journal of Economic Theory に公刊された論文において、知的財産権保護の実効レベルを、企業・消費者の倫理観の関数として内生的にとらえ、法律や倫理観が経済成長や技術移転に与える影響を明らかにした。その際、市場の質理論を動学的一般均衡モデルに適用することで、市場の質が内生的に決定されるような、新しい経済成長モデルを開発した。
  2. 第二に、Economics Letters に公刊された論文において、企業が生存競争に従事するケースをモデル化し、知的財産権保護の役割を明らかにした。研究開発活動への補助金が経済成長を促進するか否かは、知的財産権保護の水準によって異なることが示された。カリブレーションの手法を用いて、どのような国で補助金の効果がプラス(マイナス)になっているかに関する定量的な分析も行われている (MPRA Paper 47728)。
  3. 第三に、Review of Economic Dynamics に公刊された論文において、中国の経済発展がアメリカの技術進歩の方向性(スキル偏向型かどうか)に与える影響について、定性・定量両面から分析をした。中国の知的財産権保護とオフショアリングが、重要なファクターであることが示された。

  プロジェクト全体を総括して、知的財産保護の水準がイノベーションや経済成長に対して非線形の効果を持ちうることが、定性・定量両面から明らかにされてきた。海外研究者との共同研究も含めて、多くの研究が国際的に定評ある査読付き雑誌に掲載されている(e.g., EL, IJET, JEDC, RED)。加えて、いくつかの権威ある国際学会(e.g., EEA/ESEM)において研究成果が周知された。本プロジェクトは、近年活発に研究されている知的財産と経済成長に関する定性・定量分析の分野に重要な貢献をもたらしたと言えるだろう。

 

2012年度の研究実績:

知的財産保護が経済成長に与える影響について、さまざまな視点から、定性・定量的に分析し次の成果をあげた。

  • 定性分析:Patentability and Knowledge Spillovers of Basic R&D (with Angus C. Chu), Southern Economic Journal 79, p. 928-945, 2013.  
    • 基礎研究に対する特許保護の強化が、経済成長や長期的な経済厚生政策を損なう可能性を明らかにした。分析は、秋山(2008)による2段階イノベーションを伴う内生的成長モデルに基づいて行われた。
    • 基礎研究に関する特許保護の役割あるいはその是非については、遅くとも1980年代より分野横断的に活発に議論されているにも関わらず、経済成長の観点からの理論分析は十分ではなかった。その意味において、本プロジェクトの研究成果は、この分野の先端研究をさらに一歩推し進めることに貢献したといえる。
  • 定量分析:The Struggle to Survive in the R&D Sector: Implications for Innovation and Growth, CUIE Paper 1203, 2012; revised in May 2013 as MPRA Paper No. 47728, 2013. 
    • 研究開発企業の生き残り競争を内生化した経済成長モデルを構築、研究開発への補助金政策の効果を定量的に分析した。
    • データと整合的と思われる特許保護の水準を設定し、現実の研究開発補助金が過剰で、経済成長をかえって低下させている可能性を、カリブレーション分析によって指摘した。

 

 上記論文以外にも、多くの新しい研究論文が執筆され、ディスカッション・ペーパーとして公表されている(ここに)。それらはさまざまなトピックをカバーし、たとえば、オフショアリング、リショアリング、イノベーション・サイクル、国家の技術リーダーシップ等が含まれる。また、国際学会におけるプレゼンテーションも積極的に行われ、これら未公刊論文の国際的周知の徹底がはかられた。

 

2011年度の研究実績:

知的財産保護が経済成長に与える影響について、定性・定量の両面から研究を進め、次の成果をあげた。

  • 定量分析については、研究協力者であるAngus C. Chu(Durham University)との共同研究において、知的財産保護の政策ツールが複数ある理論モデルを構築した。そのモデルを適切にカリブレートすることによって、知的財産保護の政策ツールが複数あることによる経済厚生のゲインが、ツールが一つしかないケースと比較して、定量的に十分に大きいことを明らかにした (Chu and Furukawa 2011, JEDC)。
  • 定性分析については、2つの研究を行った。
  1. 研究協力者である秋山太郎(横浜国立大学)、矢野誠(京都大学)とともに、南北モデルの枠組みにおいて、企業による私的な知的財産保護投資の役割を明らかにした。具体的には、(a)私的保護投資が経済成長に寄与するかどうかを決定する2つの要因を特定した。私的保護投資とイノベーション投資の相対効率性と発展途上国における法的な知的財産保護水準である。加えて、(b)法的な知的財産保護水準とイノベーション率の関係が逆U字型になることもわかった (Akiyama, Furukawa, and Yano 2011, IJDC)。
  2. 研究協力者であるAngus C. Chuとともに、蓄積型イノベーションと知的財産保護の関係を分析した。とくに、(応用研究ではなく)基礎的な研究に対する知的財産保護の強化が経済成長および経済厚生を損なう可能性を明らかにした。

 以上の結果は、これまでの知的財産保護と経済成長に関する理論研究において明らかにされてこなかったもので、この分野の既存研究を発展させることに成功している。研究を進める中で、研究成果の報告を国内外のカンファレンス、セミナーにおいて行った。成果の一部は公刊論文として、査読付き国際学術誌に掲載された。

研究の目的(2011年):

近年、いくつかの有力な実証研究が、知的財産保護の強さとイノベーションのスピードの間に逆U字型の関係があることを示している。本研究はこの実証結果を踏まえて、知的財産保護のイノベーションおよびマクロ経済成長における役割について、定性および定量分析を行うことを目的とする。この逆U字関係を生み出すメカニズムを定性的な動学的一般均衡分析によって明らかにし、さらに、Chu (2009) の手法に倣い、適切な知的財産政策の生み出す経済厚生のゲインを定量的に計測する。具体的には蓄積型イノベーションおよび知的財産市場の制度と質の内生化に着目し、国際的に進展が見られるこの分野の研究をさらに発展させることを目指す。

The purpose of the project (2011): 

Recent empirical work has shown that there could be an inverted U-shaped relationship of the strength of intellectual property protection and the rate of innovation. In accordance with such new evidence, this research project intends to investigate new roles of intellectual property protection in innovation and macroeconomic growth not only qualitatively and but also quantitatively.

This project is new to the literature on intellectual property protection and macroeconomic growth in making a quantative analysis on measuring a welfare gain by intellectual property policy changes. In doing this, it follows Angus Chu's (2009) important work. 


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